第2話 この部屋で

私、佐古田月連(るれん)の一日は遅い。仕事は夜遅くから朝まで休みなく働く。仕事が終わり家につくと家族は既に目覚めており、忙しそうに朝の支度をしている。朝食を取り眠りにつくと夕方に目が覚める。起床後は本を読んだり、自身の体型維持にトレーニングをしたり、仕事までの数時間を楽しむ。

 

佐古田月連と言う「この男」は実につまらない人物で、趣味は読書、トレーニング。決してテレビは見ない。間食もしない。ただ、唯一、迫田月連にも楽しみはあり、それが「煙草」である。煙草とのお付き合いを計算すると、現在付き合いのある友人よりもその期間は長い。

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本を読んでいて一息ついたところで、煙草に火をつけるとぼんやりと思い出した。そう言えば、この部屋だった。

 

幼少期、私の父は煙草を良く吸っていた。銘柄は「マイルドセブンライト」だったと記憶している。そんな父は私が今いるこの部屋で私にいつものように平手打ちをした。その時の平手打ちは今でも鮮明に覚えているが、強く叩かれたようで吹き飛ばされた私は部屋に置かれていた棚に頭からぶつけた。

 

あまりの痛みに呼吸が困難なほどに泣きわめくと母が急いでやってきて私を抱き上げて、父をにらんだ。その時、父の放った言葉は

 

「加減している」だった。

 

この事が原因で私は酷く父を恨む事となる。

 

その夜、私は頭が割れるように痛く、酷い熱にうなされ、一晩中生死を彷徨ったようだった。病院に行き解熱剤を投与するも熱は下がらず、明け方ようやく眠りについた。目を覚ました時、瞳に涙を浮かべた母の笑顔が印象的だった。

 

二本目の煙草に火をつけ、酷く動揺している事に気付く。過去を旅する物語は今始まったと言える。

 

(続く)